渡辺浩弐『iKILL ィキル』レビュー

iKILL (星海社FICTIONS)

iKILL (星海社FICTIONS)

プログラマーから殺し屋に転身した主人公の経歴は、デジモノ系ライターから小説家になった作者のプロフとも重なる。殺しは発信元を偽装してネット中継しながら行われ、死体をバラし排水溝に流して証拠を隠滅する。本書の題名において、小文字は最初の「i」のみ。「IT」と「I=自分」の意味も含まれてそう。それが小文字なのは、主人公がハッキングを駆使して公開処刑を行うことから考えると、ネットのセキュリティや人間の脆弱さを表現しているようにも感じられる。ターゲットは悪人ばかりで、依頼者の気の済む手口で殺していく。それを正義と感じるかどうかは読者次第。現実にも似たような犯人の経歴と証拠隠滅を伴う事件が刊行後に起きたが、その手法は昔からあったものらしい。死体処理に使われるアジトは中野ブロードウェイビル4F病院街にある作者所有の部屋を思わせる。本作を含む出版レーベル・講談社BOX運営の喫茶店KOBO CAFE」だった時期もあり、今は作者のニコ生放送用スタジオとして使われている。なお続編の版元変更により、本書も星海社FICTIONSに移籍している。「生きるために殺す」という意味が込められていると思しきタイトルを冠した今作は、人間の生死を見届ける病院街を舞台としていたわけである。そして作家が「生きるために殺したキャラ」は、読者の脳内で別の生を得るのかもしれない。(575字)

※批評誌『新文学03 革命×ネット×二十一世紀文化のエグいコンテンツ』寄稿文に加筆したものです。
松平耕一編(主催者ブログ:文芸空間
価格 ¥800
単行本:A5版、230ページ
出版社:文芸空間社(バックナンバー通販:文芸空間社購買部 )
発売日:2010/12/05
ネット通販:とらのあなWebSite
店舗販売:新宿 模索舎、中野タコシェほか