「どなたですかあ〜?」
 妖艶な大人の美女の肉声……ではなく、むしろ甘ったるいアニメ声だ。顔に似合わず
あどけない一面も持っているのかもしれぬ。これは期待できるぞ! むふふふふ。
いやしかし、初対面から鼻の下を伸ばしていてはいかんな。ここは勝負どころだ。
「今日からお世話になります心理療法士の太宰です」
できるかぎりダンディーな声色で答えた。
「お待ちしておりました〜。どうぞこちらへ!」
 ドアを開き出迎えてくれたのは、メイド服を着た若い女性であった。
なんだ、理事長ではないのか。でもこの娘もなかなか可愛らしいではないか。
しかし本丸を忘れてはならぬぞ。
 私はゴージャスな装飾が施された理事長室の奥に目をやった。
そこには妖艶な大人の美女……ではなく、むしろ面妖なロマンスグレーの紳士が座っていた。
はて、誰だろう?
「理事長はいらっしゃいますかな?」
「ええ、私です」
紳士が答えた
「またまた、ご冗談を」
「私が理事長の姉歯源一郎です」
「まさか! 理事長は二十五歳独身の才媛・堀江佑月女史のはずだ!」
「ああ、それは源氏名ですじゃ」
源氏名って、風俗をされているのですか?」
「あいや、失敬。ペンネーム、もとい、パソコンをするときの、あれじゃよ」
「ハンドルネームですね!」
「そうそう、それじゃ」
「そういうことでしたかー。って、そんなばかな! だって約束が違うじゃないですか! 私はあなたが夜をさびしく過ごすのを慰めてくれる男性を募集していると2ちゃんねるに書いていたのを信用して手を貸したんですよ! それなのにネカマだったなんて、男の純情を弄ぶな!」
「いや、それはほんとうのことですよ。私はゲイですから」
「むごたらしいジョークですね」
「それはさておき、あなたは合格です。私が求めていたのは、まさにあなたのようなむせ返るほどに男性的な存在です。私だけでなく、ここの男性教員はみなゲイなものですから、生徒たちに男らしさを見せつけられるものがおらぬのです。二世紀も前から全寮制のエスカレータ教育を売りにしてきた伝統を壊すわけにもいかず、社会に出てから男性恐怖症にでもなりはすまいかと心配だったのです。これからは頼りにしますよ」
「本当にゲイなんですか……」
「あなたに手出しはしませんから、ご安心下さい」
「それならまあ、いいでしょう」
「さて、これから朝礼です。生徒たちに紹介しますが、挨拶の準備はよろしいですか?」
「ええ、おまかせください」
秘密の花園どころか火鉢で出鼻をくじかれた気分だ。
しかしこの後は美少女たちにお披露目の時間、これこそが本命だ。
私は鼻息を荒くしながら講堂に向かった。