人里離れた山の中腹辺りで私はタクシーを降りた。
そしてそこにそびえたつ、まるで西洋の名画のなかから飛び出してきたかのような洒脱かつ豪華絢爛なデザインの、巨大な建物を見上げた。
桃色の屋根瓦と乳白色のレンガ壁のコントラストが男心をくすぐるね。
私は、見事なまでに女の園を象徴化させることに成功した名も知らぬ建築家に、思いを馳せずにはいられなかった。
彼はきっと、さぞかし女にもたてに違いないな。
実にうらやましいことだ。
しかし同時に、そういうことなら私も決して負けてはいないはずだぞと、見ずしらずのそしておそらく故人であろうその建築家への対抗心をあらわにして私自身のことを振り返ってみた。
日米の混血児であった私は、やはり目鼻立ちのくっきりとした派手な顔立ちをしている。
そしておそらくは母ゆずりと思われる、男ながらにきめ細やかな美肌は、私の自慢である。
それに私は元バスケット部だし、背が183センチもあるのだ。
もてないはずがない経歴といえるだろう。
しかしいかんせん私には、あるどうしようもない欠点があった。
そう、私は無類のロリコン趣味なのである。
といっても男女の区別もあいまいな幼女にしか関心のない真正のロリコンとは違う。
成熟しきった大人の女って手合いが苦手なだけで、どうしても私のストライクゾーンは、つぼみが芽生え始めた年頃の、いわゆる女子校生あたりに限定されてしまうのだ。
なんといってもセーラー服が大好きなのである。
残念ながら高校まではずっと全寮制の男子校に通っていたから、女子校生と触れ合う機会なんてそうそうなかったもので、これは多分、その反動なのかもしれないな。
まずいな、こうして自己紹介をしているだけでも妄想がふくらんで、股間までふくらみはじめてしまったではないか。
いかんいかん、これから大事な赴任の挨拶があるというのに、スラックスの前にテントを張っていては、大恥をかいてしまう。
いまのうちに、冷静さを取り戻しておかねば。
とりあえずまだ時間があるので、私の経歴についてもう少し話しておこう。
それでどうにか股間のやんちゃ坊主もおとなしくなってくれることだろう。
さてそんなわけで、私の生い立ちである。
何を隠そう私の父は、ショー・コスギよりも一歩早く日本初のアクションスターを目指して映画の聖地ハリウッドに単身乗り込んでいた、二枚目俳優だったのだ。
いや、厳密に言うと、二枚目俳優志願の美青年だった。
そして父は、表舞台でのスターには残念ながらチャンスがつかめず、なりそこねたそうだ。
しかし持ち前のスケコマシのテクニックを活かし、裏舞台でのスターとして数々のナイスバデーパツキン美人女優たちを夜ごと慰めていた、伝説の男娼であった。
私はそんななか、父の顧客の美人女優の私生児として生を受けた。
母はその後、とある資産家と結婚することになっていたために、養育費とともに幼い私を父の手にゆだねたそうだ。
そういうわけで私には、母と暮らした記憶はないのである。
母のことについて知っているのは、学園物で活躍した美人女優だったらしいということくらいで、顔を見たことはない。
父いわく、少女のようなあどけなさを持った愛らしい女性だったとのことだ。
もしかすると私がロリコンになってしまったのには、父から聞いた母の面影への憧憬が、大きく影響しているのかもしれんな。
そんなわけで私は、自分がロリコンであることにはある種、誇りさえ感じているのだ。
それはさておき、もう少し話を続けさせてくれ。
父はその後、私を連れて日本に帰ってくるなり各種風俗店の経営に着手し巨万の富を築いた。
しかし私が高校生の時だった。
父は悪い女にだまされて破産し、失意のうちに精神の安定を崩し、酒の勢いで自ら命を絶ってしまったのだ。
そんな父を不憫に思った私は、家財道具をうっぱらって手に入れたなけなしの財産をもとにして、こうして心理療法士の資格を取得したというわけなのである。
さてそんなわけで、ここは心理療法士である私が今日から赴任されることになっている、全寮制の名門女子校なのだ。
ふう。
ヘビーな話をしたおかげで、どうにかふくらみかけた性欲は収まってきたようだな。
よかったよかった。
しかしなんだか、どっと疲れてきた。
似合わないことはするもんじゃないな。
そうそう、私の名は太宰治虫という。
どこかで聞いたことのあるような名前だと思われるだろうが、その通り、父が愛読していた太宰治手塚治虫から採って名付けられたそうだ。
そして父の希望通り私は、立派なロリコンのナルシストとして成長した。
なんていうと2人のファンの方から怒られてしまうかな。
ちなみに私はそろそろ30歳後半を迎えようという、ある意味おとこ盛りの年頃ではあるが、いまだ結婚暦はない。
そもそもロリコンなのだから一緒に老いていくだろう妻への愛情を維持できる自身もないし、マンコならぬチンコから生まれたのではなかろうかというほど根っからの浮気性なものだから、独身主義は絶対的ポリシーなのだ。
浮世にはバツイチやら略奪愛やらといった不穏な言葉がまかり通って久しいが、いざ結婚の契りを交わすとならば一生のみぎりとなすのが日本男児の義というものではなかろうか。なんて大層なことを言えるのも独身貴族ならではの特権かもしれないがね。
とにかくまあ、簡単に結婚なんて口にすべきではないし、子を成すような行為には細心の注意を払わねばならぬ。
ちなみに私は万が一に備え、パイプカットしている。
もしかすると将来一生愛すべき相手が出てきたときのためにと精子バンクにも登録済みだから、子供を作れないわけではないが、一時の過ちで不憫な子を増やすようなこともない。
片親でも幸せに暮らしている子供だっているとは思うが、こうして見事にひねくれた性癖を得てしまった私自身が何よりの生きた証拠である。
成長の妨げになる要素が少ないにこしたことはない。
しかしそれにしても、希望通り女子校配属に決まるなんて願ったり叶ったりってやつだな。
これでこれから先は立場を利用してよりどりみどりの美人女子校生達とあんなことやこんなことやそんなことまでもやりたい放題の夢のパラダイス生活の到来と来たもんだな。 
むふふ。
むふふふふふふふふ。
こりゃ笑いが止まらん!
むははははははは!
げへへへへへへへへ!
がほっがほっ!
げほげほげほ!
いかんいかん、また妄想にふけってしまったではないか。
それと言い忘れていたが、実は私は結核患者なのだ。
現代の医学では治る病気らしいが、幸い症状は軽いので、ほったらかしにしている。
なに?
結核患者が学校で働けるわけがないって?
そんなことを私に言われても困るよ。
現にこうして私は採用されているのだから。
そんなことよりこの学校は多くの女流作家を輩出している文科系の名門校と言われているから、結核にロマンティックなイメージを持った文学少女がわんさかいることだろう。
結核持ちだなんて文学青年っぽくってカッコいい〜とか言われてモテモテになるだろうことは間違いないな。
やはり笑いが止まらん。
むははははははは!
げへへへへへへへへ!
がほっがほっ!
げほげほげほ!
やばいな、ちょっと気を抜くと、後から後から妄想が湧いてきやがる。
ほんと自制しないとな。
さてそんなわけでまずは理事長室に挨拶に行かねばならぬ。
これがまたお美しい方なんだ。
私は理事長室のドアをノックした。