向山貴彦『ほたるの群れ』既刊4巻レビュー

ほたるの群れ〈1〉第一話・集(すだく) (幻冬舎文庫)

ほたるの群れ〈1〉第一話・集(すだく) (幻冬舎文庫)

※書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」掲載レビューと同じです。

・100字レビュー

「中学生だった頃の自分との共作」という言葉に痺れた。非日常のみならず日常までも辛い伝奇ホラー。震災を経た今「逃げるところなんてないんだ」というメッセージに酷く共感する。中学生の甘酸っぱい恋模様も見所。

・長文レビュー(2,362字)

ハウツー本の類なら知らない著者によるものでもテーマさえ良ければ気軽に読めるのだけれど、小説や漫画の場合だと知らない作者の作品は、なかなか手を出せなかったりする。しかし本書は「本が好き!」内の著者インタビュー http://news.honzuki.jp/hotaru_no_mure や、本作の公式サイト http://www.studioetcetera.com/hotaru/ にあるプロモーション動画などを見て、その格好良さに圧倒され、読みたいと感じた。特に「中学生だった頃の自分との共作」という言葉に痺れた。

それにまた興味深いのは漢字一文字のサブタイトル。第1巻は「集」と書いて「すだく」と読ませる辺り、知的好奇心が刺激される。第2巻は「糾(あざわる)」第3巻は「阿(おもねる)」第4巻は「瞬(まじろぐ)」となっており、僕の使っているPCで変換できたのは唯一「おもねる」だけだったから、他の文字に関してはそんな読み方をできることすら知らなかった。

題名から想起されたのは野坂昭如・原作のジブリアニメ『火垂るの墓』だ。何度も観ていてその度に泣くのだけれど、可哀想な子供たちの命の儚さという点で繋がっていると思う。あるいは竜騎士07サウンドノベルひぐらしのなく頃に』にも近いセンスだろうか。ジャンルとしては伝奇ホラーだと思うので『ひぐらしのなく頃に』は内容的にも同系列。そういえば井上淳哉の漫画『おとぎ奉り』もそういう感じで心惹かれ最後まで読み切ったが、関係者にしか武器が見えないといった辺りの中二病さ加減が良い意味で似ている気もする。

子供たちが闘う物語と言えば、高見広春の小説『バトルロワイアル』や鬼頭莫宏の漫画『ぼくらの』を想起するが、暗殺者という設定になると藤川桂介の小説『宇宙皇子』や小山ゆうの漫画『あずみ』といった作品に連なる。しかしそれらは時代が違う。本作はケータイ電話(スマホではないのは中学生だから?)やタッチパネルのタブレット端末などが出てきて、明らかに現代を舞台にしている。ちなみに本作には「アズミ」という名の暗殺者も出てくる。裏の顔を隠して生きてきたところからの連想で真っ先に思い出したのは藤子・F・不二雄パーマン』だったりもするが、内容はもっと残酷である。

このレビューを書くに際して既存のレビューを確認してみたところ、何の説明もなしにオリジナル用語が多用されるなどの理由から1巻目の評判が良くないようだが、庵野秀明監督のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』や竜騎士07ひぐらしのなく頃に』も謎だらけだったことを思えば、今後かなり売れてメディアミックス展開される可能性があると考えて良いだろう。

なおエヴァの主人公シンジによる「逃げちゃダメだ!」という有名なセリフがあるけれど、この作品の主人公・高塚永児は少し違っていて「逃げるところなんてないんだ」と繰り返す。そういえば東日本大震災原発事故が起きた時、震源および原発から距離があったにも関わらず、関東から西へ避難する人が大勢いたけれど、諸事情により故郷の北海道から逃げるようにして上京し、そのままずっと東京にいる僕にとっては「逃げるところなんてないんだ」というメッセージに酷く共感するところがある。

確かに東京でも死者が出ていたし放射性物質も飛んできたものの、被害の大きかった東北地方と比較すれば大したものではない。そもそも岩手や宮城の被災者たちは、山形や秋田や埼玉などに避難してきたわけで、その避難先は明らかに安全度の高い場所だと考えなくてはならない。何故ここにそんなことを書くのかというと、2010年6月〜2011年1月にかけて「E★エブリスタ」なる電子書籍サイトに連載された後に加筆修正された第1巻の発売日が2011年4月15日なので、その間にちょうど震災を挟んでいたから、何らかの影響はあったかもしれないと思ったからだ。

本作の最大の特徴として「非日常のみならず日常までも辛い物語」であることを挙げておこう。主人公・永児は父親を亡くしていて、更に姉が自殺未遂で昏睡状態のまま集中治療室にいて、母親はそのせいで鬱を患っている。なおかつそこに暗殺者までやってきて、どこにも逃げ場がないのだ。しかし彼はガンダムでいうところのニュータイプ的な能力を秘めていて、プロモ動画にも出てくる「頭の中のスイッチ」を切ると覚醒し、暗殺者たちを翻弄させる。

永児が恋するヒロイン・小松喜多見も両親を亡くしている。この二人の関係は物語が進むにつれ微妙に変化していくのだけれど、二人ともシャイで簡単に言葉を交わせない。その甘酸っぱい恋模様もまた本作の大きな見所。主要キャラの設定およびストーリーの関係を他の作品に置き換えて説明すると、原作・大場つぐみ、作画・小畑健の漫画『バクマン。』と同コンビによる『DEATH NOTE』が合体したような感じだろうか。

永児と喜多見の関係は『バクマン。』なら真城最高亜豆美保、大人しい喜多見を元気づけてくれる明るい親友・平本裕美は高木香耶、永児をからかうイケメンのメガネ男子・千原行人=高木秋人、強敵だが実は良い奴の阿坂洪助=新妻エイジ、と重ねてみればシックリくる。でも物語は「漫画家のサクセス・ストーリー」ではなく「悪魔めいた中学生たちによる凄惨な殺し合い」なのだ。

昨年4月から今年10月にかけて年2冊のペースで刊行され、10月10日に出た第4巻で「一学期」は完結。そうすると来年の4月から「二学期」が始まるのかな。1999年のデビュー作『童話物語(上・大きなお語の始まり/下・大きなお語の終わり)』や何とミリオンセラーを記録したという『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』も気になるので、その前に読んでおきたいと思っている。