岸田衿子『おうさまのみみはろばのみみ』レビュー

・100字レビュー

王様の耳がロバであることを知った理容師が、それを隠さなければ殺されるのに我慢できなくて穴を掘って叫んだら広まっちゃう有名な童話だけど、ネットが発達した今になって考えると2ちゃんねるを予見していた感じ。

・長文レビュー(約1,000字)

王様の耳がロバであることを知った理容師が、それを隠さなければ殺されるのに、我慢できなくて穴を掘って叫んだら逆に広まってしまうという有名な童話だけれど、ネットが発達した今になって考えると2ちゃんねるなどの登場を予見していた感じもする。

いま手元にないので30年ほど前に読んだ記憶を手掛かりに書いてみるが、絵柄は覚えていたので、子供の頃に読んでいたのはこの本で間違いなさそうだ。絵本は文章と絵がセットになっていて、漫画と小説の中間みたいな感じだから、絵もかなり重要。

隠さなくてはいけないはずの王様の耳が表紙に描かれていていいのか疑問に思ったが、そもそも作品名からしてネタバレしているのが面白いところ。実際に理容師(文中では床屋だったと思うけれど、いま使っていい言葉なのか迷うので現代風に)が穴を掘って封じ込めたはずの言葉が、書名通り「王様の耳はロバの耳!」だった。

その言葉はどういうわけか木霊のようにして国中に広まってしまうのだけれど、王様はもう隠すことを諦めて、むしろ気が楽になったとして、理容師に感謝するんだったかな。そういうことはロバの耳をした王様じゃなくても、現実に良くある流れにも思える。

ちなみに前から気になっていたのは、どうして王様の耳はロバの耳になってしまったのかという点。おそらく先天的奇形に思われるが、どうやらヨーロッパの王族にもそういうことがあったらしい。これも確証はないのだけれど、王族同士の婚姻などにより、そういう事例があったようだ。

良く言われるのは6本指の多肢症である。ミッキーマウスなどディズニー映画のキャラクターが4本指なのは、アニメーションとして動いている時に6本に見えないよう配慮されているとか。そのくらい西洋においてはポピュラーなわけで、人種的な問題もあるように思われる。

日本の場合は逆に4本指に差別的な意味合いを感じさせるところがあるため、ミッキーマウスは特例として許されているような感じである。実際にテレビアニメ『妖怪人間ベム』の主人公らは当初3本指だったが、リメイクされた際には5本指に変更されていて、漫画やドラマ版でもそうだった。

とにかく世の中には何らかの事情で隠さなくてはいけないことが沢山あるけれど、実はそれを明かしてしまえば楽になれるなんてこともあると教えてくれる寓話だと思う。

※書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」掲載レビューと同じです。