短歌レビュー

<東スレ住人の短歌>
コンクリート 踏みて鴉の啼ける朝 コートの襟立て 薬罐を捨てる

<工藤伸一のレビュー>
あるがままの実相を描くことで人間の内奥をより明確に浮き彫りにする斉藤茂吉を思わせる写生の美学。「薬罐を捨てる」所帯じみたシチュエーションには啄木風のリアリズムが垣間見え、コンクリートとコートそして鴉のコントラストが寺山流のハードボイルドかつ不穏なイメージを感じさせる。鴉といえば古来では吉兆の象徴とされていたこともあるが、現代の都市においては厄介者以外の何者でもない。所帯じみたハードボイルドの滑稽さは、見栄と本音の狭間を揺れ動く都市生活者の孤独な魂を慰めてくれる。

<東スレ住人の短歌>
叫べども やはり果たせぬ感電死 骨と肉との 研究や如何に

<工藤伸一のレビュー>
作者は本当に死にたがっているのだろうか。高度情報化社会の昨今、簡単に死ぬ方法なんて小学生でも見つけられるというのに、あえて「感電死」を選ぶからには、一種マゾヒスティックなエクスタシーに喘いでいるようにも思えてならない。植物とは思えない異様な悪臭を放つ「死体花」というものがあるが、最近の研究で動物の骨肉組織に似た細胞を有することがわかったらしい。おのれの人肉が焦げるニオイは、スカトロジーにも通ずるグロテスクな充足感を与えてくれることだろう。