『家族八景』と『家政婦は見た!』の意外な関係

見た目も仕草も猫らしい猫なのに、妙に人間臭い家政婦として働く猫村さんの日常を描いた和み系コミックの最新刊『今日の猫村さん』3巻が出ました。

ケーブルテレビ会社J:COMのホームページ連載から人気に火がついた、ネット発ヒット漫画の走りでもあります。J:COM本社が高井戸にあることから、1巻の発売時には京王線沿線に巨大なポスターが沢山貼られていたりしました。

作中に『家政婦は見た!』みたいなテレビドラマが登場します。猫村さんはそのドラマのファンとのこと。確かに多くの人々にとって家政婦といえば市原悦子の印象が強いかもしれません。そんなこともあってかメイドさんだと若い娘のイメージなのに、家政婦というと妙齢のイメージがあります。でも実はあのドラマって25年も続いているので市原悦子さんの役どころは、むしろ小娘だったんですよね。

ちなみに1983年に始まったテレビドラマ第1弾の原作は松本清張の短編小説『熱い空気』だったとのこと。家政婦の出てくる小説なら筒井康隆の『家族八景』が先だろう、という声も聞こえてきそうです。ネット検索してみた感じでは、どちらも有名で双方互角といったところでしょうか。

実際どちらが先に発表されたのかと気になって調べてみたら、双方とも文庫本収録は1975年。文庫書き下ろしでなければ、その前に単行本か雑誌で発表されているはず。
さらに初出を調べてみたら、面白いことに気づきました。

家族八景』の初出は『オール讀物』昭和47(1972)年10月号で、第67回直木賞候補作品。選考委員の中に、なんと松本清張氏がいました。評価はあまりよくなかった模様。

「家政婦の霊感と各家庭の描き方とがいささかちぐはぐな感じである。」「筆が少々リアリスティックで几帳面にすぎたと思う。私には前回の候補作で、未整理の面が多かったが、「アフリカの爆弾」の傾向にこの作家の本領があるように思う。」※

※「直木賞のすべて:第67回候補『家族八景』選評の概要」より
http://homepage1.nifty.com/naokiaward/kogun/kogun58TY.htm
さて『家政婦は見た!』の原作となった清張氏の小説『熱い空気』の初出はいつだったのか。映画『文学賞殺人事件』の原作としても知られる筒井康隆の『大いなる助走』という小説では、文学賞の選考委員がうっかりネタをパクってしまったことを隠そうと、受賞に猛反対するエピソードが出てきます。ともすれば、事実だったということも。清張氏亡き今、真実の程は関係者のみぞ知る、あるいは清張宅の家政婦も。。。