そんなわけで私は、ふもとにある暴走族の溜まり場にむかうこととなった。
しかしどうしよう。
安うけあいしてしまったものの、私はもうそんなに若くもないし。
心理療法士の知識を応用してどうにかできればいいのだが。
ヴロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ……
この爆音は! このへんにいるのか。
やっぱ逃げちゃおっかな。……いやいしかし、美少女との夢の時間が待っているのだ。どうにかしたい気もするな。
でもやっぱ、今日のところはやめとこう。別にすぐじゃなくてもいいわけだし。
「よお、おっさん。それって、ベルサーチだろ? いいスーツ着てるじゃねえか。ちょっくら俺らにもめぐんでもらえないかなあ?」
後ろから声をかけられた。もう手遅れだ。こりはやばいな。やばいなこりは、ヤバいぜアニキ!
「いやあ、そうかね? でもこれ、もらいものなんだよなあ。金なんて持ってないよ」
「ああ? そんなこと言って、全身ブランドまみれじゃねえかよ」
「あはは。そういわれてみれば確かにね」
「おいおい、おっさん。ふざけるのもたいがいにせえよ?」
凶悪な眼差しから顔をそらしたところ、近くのビル壁に晴れらている化粧品の広告が目にはいった。往年の名画『お熱いのがお好き』の有名なワンシーンを模している。
あることを思い出した。いい手があるじゃないか!
試したことは無いが、不良少年なら、たいていは多分これでいちころだぞ。
私はおもむろにジャケットを脱ぎ捨てた。
「お、なんだいオッサン、やる気か?」
好戦的な笑みを浮かべつつも、どことなく腰が引けている。うまくいきそうだ。
ワイシャツを脱ぎスラックスを下げたところで、太鼓腹があらわになった。かつては理想的に割れていたはずの腹筋も、いまやどこにあるかさえわからない。酒と女にいりびたりの放蕩生活がもたらしてくれたものだと思えば誇らしくさえもあるのだが、この場においては相手を油断させる余興にしかなりえまい。だが、それさえもまた想定の範囲内だということにまでは考えが及ぶまい。まさにホリエモンばりの粉飾体型というわけだ。
「なんだいオッサン、そのカラダで動けるのかよ」
神をもおそれぬ少年たちのナイフのような嘲笑が五臓六腑に突き刺さる。
これからが正念場だ。
さてとばかりに、私はパンツを下ろした。
「こ、これはまた見事なお手前で……」
度肝を抜かれ言葉尻まで丁寧になった少年たちは道端にひれ伏した。
「おみそれ致しました、大将!」
そして彼らもまたブリーフを下ろし短小包茎のイチモツを晒すに至り、治虫の推理が的中していたことが明白となった。すなわち彼らの暴走の要因は性器の小ささにこそあったのだ。抑圧された肉体的劣等感のコンプレックスが彼らのプライドを支えていたのだ。見事な身体能力を誇示する黒人文化を敵視してきた白豪主義はこんなファー・イーストの地方都市にまで類を及ぼしていたのである。