掌篇『AKB』2,698字(※エロ注意)「第二回 てきすとぽい杯」19作品中10位

「お客様の中にAKBのメンバーはいらっしゃいませんか」

 飛行機での尋ね人といえば「お医者さま」が定番だと思い込んでいたが、何せ乗るのは久しぶりだから実際にはそうではないのかもしれない。とはいえAKBのメンバーを探さなくてはいけない状況とは一体、何が起きているのか。

 座席を離れアナウンスしていたキャビンアテンダントのもとへ伺い「どうしてAKBのメンバーが必要なんですか」と質問を浴びせてみたところ「お客様はAKBのメンバーですよね。だったら助けて下さい」などと切り返してきたので、どうしてバレたんだろうと怯みつつも平静を装って「もしそうだったとしても理由が分からなければ名乗れませんよ」と答えたところ、今度は「見れば分かりますよね、この惨劇を」などと倒置法の修辞で畳みかけてきたものだから、ファーストガンダム世代の僕は嬉しくなって思わずシャアの名言「認めたくないものだな。自分自身の、若さ故の過ちというものを」をそのままパクって伝えてみたらば、案の定CAはアニメの知識が不足しているらしく「何のことか分かりませんが、とにかく助けてくれませんか」とテンパった調子で僕に縋りついてきたので、仕方なく何が起きているのか目視で判断することとなった。

 いまCAの側に座っているのは、緑色の身体から手足が48本も伸びているのみならず、顔面には目鼻口どれを数えても48個ある異形の生物であり、どうみても人間には思えないから、体調を崩しているのだとしても人間と同じような方法では助けようにないことが判明した。なるほどそれで「お医者さま」ではなく「AKBのメンバー」でなくてはならなかったのだ。しかし気がかりな点は他にもあるので、ちゃんと確かめておかなければならない。

「それにしても何故、男の僕がAKBのメンバーだと分かったんですか」
「だってAKBのティーシャツを着てるじゃありませんか」
「それで判断できるならAKBヲタクは皆メンバーってことになりますよ」
「そんなはずはありません。だってお客さまの着ているティーシャツはメンバーしか着られない特別なものですよね」
「そこまで知られているのなら、もはや白状するしかない。ご指摘の通り僕はAKBのメンバーです」
「しかもネ申セブンの一員ですよね」
「お詳しいですね。いやはや驚きました。確かに僕はAKB男組のセンターを務めています」
「だったら早く何とかして下さいませんか」
「そうしたいところですが、異形の生物を助けられる能力なんぞ持ち合わせておりません」
「異形の生物ではありません。ついさっきまでは普通の人間のなりでした」
「つまりその方が急に変身してしまったわけですね」
「ですからAKBでないと対処できないんです。客室乗務員のマニュアルにも書かれています」
「ならば断るわけにいきませんな。まず先に僕がツイートしますから、それを読んで下さい」
「当機ではネットの利用を禁止しておりますので、ツイートはやめてください」
「それならエアツイートにしておきましょう。今から手書きで書きます」

 AKBティーシャツの上に羽織っていたジャケットの胸ポケットから手帳と万年筆を取り出し、一気呵成に書き上げてCAに手渡した。「さあ声に出して読んで下さい」

   ☆

「書くことは生きることだ」って誰の言葉だったかな。「書くのが下手なら書かない方が良い」なんてのは「生きるのが下手なら生きない方が良い」と言ってるのと同じだ。相手が誰だろうと、そんな説教をされる筋合いではない。

   ☆

 それを聞くなり機内の客がどよめき始めた。予想していたことではあったものの、その殆どがブーイングだったので、僕は落胆した。しかもCAはその反応を受けて恨みがましい目つきでこちらを睨んでいる。

「これは僕のせいではありません。貴女の読み方が下手なんですよ」
「下手なら書かない方が良いという意見を批判しておきながら、下手なら読むなと仰るんですか」
「それとこれとは話が違います。だって貴女は僕の正体を知っているのですから」
「どういうことですか」
「こういうことです」

 吐き捨てるようにそう言うなり、ジャケットもティーシャツもジーパンもボクサーパンツも全て脱ぎ捨てて産まれたままの姿を曝け出し、腰に両手をあてて股間のイチモツの先端を舐めろとばかりにCAの唇に押し当てた。CAのディープスロートによって跳び出した白濁汁は異形と化していた客の体中に飛び散り、千手観音のように伸びていた手足を溶かし、爬虫類めいた肌の色や増殖していた目鼻口も次第に変化して、人間の姿に戻った。なお仕事を終えるまでに五回も射精をする必要があったため、僕はすっかり疲れ果てて「こんなことをしている場合ではない」と賢者タイムに陥った。

「どこのどなたか存じませんが、助けてくれてありがとうございます」人間に戻った姿はまるで本物のAKBメンバーそっくりだったので訝しく感じているとCAは「そうなんです。このお客さまは貴方の推しメンだったのです」「だったら最初から言ってくれれば良かったのに」「それはプライバシーの侵害に当たりますので無理でした」「まあしかしこれで本物のAKBの未来は明るくなったわけですね」「その通りでございます」CAと推しメンの二人は、すっかり萎び果てた僕のジュニアを愛おしげに愛撫しながら、安堵の涙を流し続けた。

 まあそんなわけで僕は久々のフライトによって日本の至宝を救えたようだ。なお「AKB男版」などというアイドルグループは存在しない。僕が属している組織は「諦めることなく・書き続ける・馬鹿たち」の頭文字をとって「AKB」なだけなので、本物のアイドルがそれを知ってるはずもないし、ましてや何の関わりもなかったCAに見抜かれる可能性も考えられなかったものだから、今回の珍事を持ってして僕らの知名度が少しでも上がってくれたなら幸いである。

 それにしてもどうして本物のAKBメンバーがあのような大惨事に見舞われたのか。故郷の空港に到着後、件のCAに誘われて待ち合わせたレストランで問い質してみると、実はあの機内にはAKB関係者しか乗っていなかったというのだから、本物のAKBメンバーではない僕が同乗していたのは、何とも素晴らしい偶然だったことになる。精力のつく亜鉛を多く含むカキフライを食べたおかげで僕のギャランドゥーは復活。CAとの激しい夜を共にすることとなったのは言うまでもない。何て下らないものを書いてしまったのか情けなくなるけれど、だからこそ僕はこれから先どんな困難に阻まれようとも「諦めることなく・書き続ける・馬鹿たち=AKB」で今後もいられる自信がついた。(了)