月刊誌『文藝春秋』2012年3月「芥川賞発表」号レビュー

文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]

文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]

・100字レビュー

今回の芥川賞は1年前と似たようなパターンでダメ人間とインテリがW受賞。石原都知事は職歴のない田中氏を褒め円城氏を叩き選考委員を降りた。それぞれ奇妙なコダワリの強さが彼らの能力の源泉になっているのかも。

・長文レビュー(約900字)

今回の芥川賞は1年前の西村賢太さん&朝吹真理子さんと似たようなパターンで、勉強嫌いなダメ人間・田中慎弥さんと、博士課程修了のインテリ・円城塔さんがW受賞。なお半年前の前回は「該当作品なし」だったので、同じ路線が続いている感じですね。また田中さんは直筆で原稿を書いていて、円城さんが長らく漱石を読めなかったのが面白いところ。

田中さんは職歴のないアラフォーなのに、石原慎太郎さんが褒めてる辺りも興味深いです。本来なら著者の出自と作品は関係ないと考えるべきかもしれませんが、そこを完全に切り離せる人は少なくとも純文学の世界にはいないと思うから、そういう点も含めた荒々しさが都知事のメンタリティに近しかったんでしょうか。そして真逆のベクトルに位置する円城さんは、やっぱり叩きまくっていました。

結果発表の直後に「飽きたから辞めるんだよ」などと答えていた石原さんは、選評によると前から今回で選考委員を降りるつもりだったとのこと。その文章の半分は政治の話だったので、けっきょく都知事を優先したわけです。大震災や原発事故で何かと大変な時期ですし、もっともな決断にも思えます。

一方かつては舞城王太郎さんをこっぴどく嫌っていた宮本輝さんですが、今回は円城さんを理解できないけれど仕方なく評価するみたいな感じになっていて、何だか今までより持論を貫き通す迫力がなくなってしまったようです。今度は誰か都知事に変わる強面を召喚してほしい気もするようなしないような。

田中さんの受賞作『共喰い』で驚いたのは、会話のカギカッコ内の最後に句点が打たれていること。でも舞城さんのように疑問符の後のスペースを省略してはいなくて。そんなの別にどうでもいいルールではあるけれど、そういう奇妙なコダワリの強さが、彼らの能力の源泉になっているのかも。

円城さんの『道化師の蝶』は芥川賞を狙うために作風を変えたりしたのかなと思いきや、今までと特に変わらない「書くことについて書く」ような路線で安心しました。SFと純文学を書き分けるという意識は、そもそも円城さんにはないのかな。こちらもやはり確固たるコダワリの塊で、そういうものを見つけた人間は強いですね。

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