村上春樹『ノルウェイの森』上下巻レビュー

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

・100字レビュー

ノンポリ大学生ワタナベはボッチだが俗物の先輩と女遊びしててモテる。ヒロイン直子は心の病から自殺。彼女の彼氏で主人公の親友キズキも自殺していた。自殺者はバブル期に減ったがバブル直前は二万人を超えていた。

・長文レビュー(887字)

バブル景気の熱狂の最中、一九八七年に発表され、単行本と文庫本それぞれの上下巻を通算すると、実に一千万部をも売り上げたベストセラー小説である。学生運動に背を向けるノンポリ大学生の主人公ワタナベは基本ボッチだが、俗物の先輩ナガサワと女遊びしていて余裕があるせいか、そこそこモテる。

好きな女性の死を三十路男が回想するのは『セカチュー』も同じだが、本作のヒロイン直子は白血病ではなくココロの病から自殺してしまう。高校時代には彼女の彼氏で主人公の親友だったキズキも自殺していた。直子はキズキと体の相性が悪くセックスできなかったのに、主人公とは一度だけしている。戦争でもないのに人が死にまくり、主人公ともう一人のヒロイン緑だけが生き残る。

自殺者はバブル期に減ったが、今作が書かれたバブル直前は自殺者が二万人を超えていた。自殺と恋愛が響き合う物語は、日本で最も読まれた小説である漱石の『こころ』や太宰『人間失格』にも共通する、日本人好みの主題ともいえるだろう。

原作からほぼ二十年後に松山ケンイチ主演で映画化された際には、「手コキ」など未成年読者には過激に思えた性描写も一応あったが、あけすけなヌードなどは殆どなく、その点では安心して観られるはずだ。とはいえ当たり前のように周囲の人間が死んでいくのを読むのは非常に辛いので、メンタル面の弱い自覚のある人は原作・映画ともに注意が必要。

僕は学生時代に原作を読み、主人公と同じ三十路になってから映画を観たけれど、そのいずれに際しても同程度の心理的ショックを受けてしまったくらいである。漱石や太宰と違うのは、時代背景やライフスタイルが自分に近すぎるところ。ライフスタイルが自分に近いといっても、著者自身へのインタビューによると、「上流階級の生活を意識して書いた」と言っていて、僕が上流階級なわけではない。しかし主な舞台である70年代の上流階級な若者の生活は、現代では普通の生活に思える。

なお現代日本の純文学はエンタメ小説に比べて多くの読者を獲得しにくくなっているが、この作品は旅行中に猫を預けた編集者への恩義からエンタメを意識して書かれたとのこと。

※批評誌『新文学04 現代文化のセクシュアリティ原発事故へのアクション』寄稿文をアレンジしたもの。
松平耕一編(主催者ブログ:文芸空間
価格 :¥1,050
単行本:A5版、256ページ
出版社:文芸空間社(バックナンバー通販:文芸空間社購買部 )
発売日:2011/12/31
ネット通販:とらのあなWebSite
店舗販売:新宿 模索舎/阿佐ヶ谷 古書コンコ堂/ジュンク堂書店 大阪本店/全国 とらのあな
2012/5/5「COMITIA100」委託販売予定「スペースNo未定」駕籠真太郎先生の公式HP【印度で乱数】原画通販も。